『カリブ海の秘密』 アガサ・クリスティー ハヤカワ文庫

 「気のいいふわふわしたおばあさんのように見えていて、中身は全然そうじゃない」我らが詮索好きなマープルおばさんが療養中に出会った。マープルの右肩ごしに何かを見て驚愕する少佐、ホテルに集まる有閑人達、ぺちゃくちゃとおしゃべりばかりする登場人物たちとどうにも既読感が否めなかったんだが、よく考えたらマープルさんが登場するのは全部そんな話やん。殺人を未然に防ごうとするミス・マープルが健気。

 『魔法物語』 ヴィルヘルム・ハウフ 河出書房新社

 「確かにパクッたよ。でも俺が書いた作品の方が面白いだろ」といったのはデュマ先生でしたっけ? 言い方悪いけれど、まあそんな感じの作品。デカメロンっぽく、偶然めぐり合った隊商たちが不可思議な話をして時をつぶすというお伽噺。『切り離された手の物語』が多少『幻の女』っぽかったかな。

 『悪魔のミカタ5』 うえお久光 電撃文庫

 この1作で私はうえお久光が好きになった。身体能力で圧倒的に優れている相手に対して、如何にして勝つかということに念頭をおいたボクシングの一戦が実に熱い。グリム童話の「ルンペルシュティルツヒェン」から採ったと思われる知恵の実(その名も“レフトアームスピーキング”)関連はどうでもいいと思えるぐらい、このボクシングの試合は輝いている。
 もしかしてこの作者「知恵の実」ださないほうが面白いんじゃないか?

 『UMAハンター馬子 闇に光る目』 田中啓文 ウルフ・ノベルス

 うわ、びっくりだ。あまりにもつまらなすぎる。「これまでのあらすじ」から漂ってくるフォローしようの無い地雷臭にフラフラと惹かれて読んでみたのだが、期待を裏切らないつまらなさ。これは俺が理解できないだけで本当は面白いのかもしれないと一瞬錯覚してしまうぐらいしょうもなかった。現時点では今年度のワースト作品最有力候補。

 『忍法関ヶ原 山田風太郎忍法帖短編全集7』 山田風太郎 ちくま文庫

『忍法関ヶ原』…ホモはイヤ。とにかくイヤ。
『忍法天草灘』…本編よりも江戸時代の口語を記した資料である「懺悔録」のほうが面白い。その資料の使い方はうまいけど、全体としてはいまいち。
『忍法甲州路』…恐るべき秘術を持つ三人の忍びに打ち勝たんとして腕を磨いた三人の剣客が、その対戦相手に特化しすぎた攻略方のために負けてしまうという作者の短編忍法帖らしい展開が○。
『忍法小塚っ原』…この4作の中では一番好き。「安政7年云々」のラスト1行で時代背景を全て語ってしまう作者の手腕が見事。