『招かれざる客』 アガサ・クリスティー ハヤカワ・ミステリ文庫

 一人の男が道に迷い、電話を貸して欲しいといって、とある屋敷にやってきた。しかしその男が見たのは、書斎に転がっているその家の主と、死体のそばで拳銃を握り締めている一人の女性だった。彼は女性を救うためいろいろと細工をするが……。
 クリスティーの戯曲としては『ねずみとり』が一番有名なのだろうが、この作品も中身だけなら決して負けてはいない。書斎に転がっている死体や美しい未亡人、怪しげな男性などお馴染みの道具立てだが、そこら辺に転がっているやつとは出来が違う。ラスト50頁ほどで二転三転するというミステリファンにはたまらない作品。

 『黄金流砂』 中津文彦 講談社文庫

 あの岡嶋二人の『焦茶色のパステル』とともに第28回江戸川乱歩賞を受賞した作品。「義経が衣川で死なず、生き延びていた」という義経生存説を絡めつつ、奥州藤原氏三代の黄金財宝を巡る暗号ミステリ。
 暗号のほうは凝っていて非常に出来が良いのだが、殺人事件の方はしょぼい時刻表トリックが使われていたりして(私は時刻表トリックが嫌い)読んでいてきつかった。分量を今の半分にして、殺人事件無しにした方が、私好みの作品になっていたんじゃないだろうか。あとラストのインディー・ジョーンズみたいなのは、確かにバカバカしいけど、まあ、そんな批判するものじゃないだろう。
 また解説で中島河太郎さんが本書のキモである暗号の解読法を思いきりネタバレしている。ネタバレは藤原宰太郎笠井潔でたくさんだよ。

 『左眼を忘れた男 I wanna see you』 浅暮三文 講談社ノベルス

 栄えある第1回参推魂でトラック氏id:viewから頂いた本。ある男から飛び出した左眼の冒険を描いたもの。乱歩が言うところの「奇妙な味」全開の作品。読んでいてクラクラしてくる。決して読みにくい文章というのではないが、気持ち悪くなる妙な文章だった。
発想は凄いんだが、あんまし楽しくなかった。何でだろう?