『スペイン民話集』 エスピノーサ・三原幸久編訳 岩波文庫

 芥川龍之介が書いた『蜘蛛の糸』のモトネタになった『聖女カタリーナ』や、シェイクスピアの『じゃじゃ馬ならし』に影響を与えたとみられる『天下を取りたがる女房』など82篇のスペインの民話を収録。本書はそれらを謎話、笑い話、教訓話、メルヘン、悪者話、動物昔話、だんだん話などの6つの章毎に区切っている。
 昔話の魅力というのは、(おそらく)当時の人間には理解できたのかもしれないが、現代の人間には理解不能な動機で登場人物たちが行動していくことだと思いますね。シュールとでもいうんでしょうか。その手の作品が多い民話は当たりだと思いますよ、ほんと。この本の中なら『狼にとって食べ物のあたるよい日』がその代表だと思いますね。これは朝一番におならをした狼が今日はいいことがあるぞって確信したのだけども、様々な災難に遭遇し、終いには殺されてしまうというどうしようもないお話。こんなもんに教訓だとか政治批判だとか、そんなモンは俺には全く理解できないんですけど、読んでいて幸せですね。
 そんなこんなで、一話あたりの文字数が少なく、ナンセンスな話がたくさん詰まっていて(且つたまにシリアス)なかなか楽しめました。特に『兵士のフアン』が最高の出来です。神を否定し、人間讃歌をテーマに抱える逸品ですんで。