『殺人は容易だ』 アガサ・クリスティー ハヤカワ文庫

 植民地から帰ってきたばかりのルークは電車の中で一人の老婦人と出会う。その老女によると彼女の村では連続殺人事件が起こっており、そのことに気づくものは彼女を除いては誰もいない。そして彼女はこれから警官にその犯人の名を訴えに行く途中なのだとルークに語る。もちろんルークはそんなことはかけらも信じてはいなかった。翌朝の新聞で、その老女が車に轢かれて死んだという記事を見るまでは。彼女の言うことは本当のことだったのだろうか? 真相を確かめるため、ルークはその村にむかった。


 登場人物たちとひたすらおしゃべりをしながら、普通の村に隠れひそむ連続殺人鬼をとらえて事件を解決するというたいへんクリスティーらしい長編ミステリですね。若い男女のラブロマンスも一応絡めてくれてます。会話文中におけるHeとSheの使い分けに気を使うなど、最低限のお約束はきっちりと守っているのも彼女らしいです。状況証拠onlyで物的証拠がないために、犯人にムリヤリ次の殺人を計画させて、その現場を探偵役が未然に抑えるというのも彼女らしい解決編です。動機もあって機会もある奴はほかにいくらでもいるのに、どうして探偵役はこの人が犯人だと断定できるんですか? という読者の疑問を微塵も解決してくれないという、たいへんすっきりしない(でもクリスティーらしい)いつも通りの解決編でした、ハイ。