『随筆私本太平記』 吉川英治 吉川英治歴史時代文庫

 『私本太平記』執筆時に届いた読者からのお便りを紹介したりする『随筆私本太平記』と宮本武蔵を書くに至った執筆動機や、宮本武蔵連載中の苦労話等を描いた『随筆宮本武蔵』との2編を収めたエッセイ集。
 『随筆私本太平記』の方はあまり読み応えがなかったのだけども(単純に『随筆宮本武蔵』と比べた場合での分量の問題のせいだと思う。『随筆私本太平記』が100頁チョイなのに、『随筆宮本武蔵』はその3倍の分量があったから)、もう一方の『随筆宮本武蔵』はなかなかすごい。
 宮本武蔵の史伝として、しっかりと判明しているのは、晩年の熊本で過ごしていた時分のものだけで、武蔵が若い頃の資料なんてのはほとんどない。あるのは瑣末なエピソード信憑性の低い資料なので、これに寄りかかって作品を創るのはちとキツイ。つまり吉川英治が『宮本武蔵』で描いたあの一人の青年剣士は一個人・吉川英治が己の創造力をフルに駆使して描いた虚構の物語なんですよと、そういうことがこの随筆を読むとよく分かる。
 やはり時代・歴史小説作家にとって一番大事なのは、資料を綿密にあたる能力ではなく(もちろんそれも大事だけど)、自分の想像力を使ってストーリーを紡ぐことなんだなと、授業も聞かずにそんなことを考えておりました、ハイ。