『まどろみ消去』 森博嗣 講談社文庫

 私は森が非常に嫌いで嫌いでしょうがなかった。この短編集も『ミステリ対戦の前夜』やら『誰もいなくなった』やらを、「ああ、いつもの森だな、クソつまんねえ」と呟きつつも我慢しながら読んでいた。
 だが、最終話『キシマ先生の静かな生活』を読んでそんな森への評価は一変した。この作品は研究者の日常を描いただけの小品なのだが、とにかくこれに登場するキシマ先生は最高にかっこいい。とくに―これは最高に良い論文だ。僕はこいつを尊敬している。―という本文357頁4行目のキシマ先生のセリフとかが。
 この短編だけでも本書を買った価値があった。本を読むのはこんなにも楽しいものなのか。ホンットに面白かった、この『キシマ先生』。