『天使の傷跡』 西村京太郎 講談社文庫

 山の中で刺された男は「天」と言い残して、息絶えた。偶然現場に行き合わせた新聞記者の田島はその事件を追うが、その背後には日本が抱える大きな問題が…。第11回江戸川乱歩賞
 

 殺人事件を調べるのが新聞記者だったり、崖の上で刑事と問答したりと、私が持つ社会派のイメージによく符号する作品。中盤が退屈で退屈でしょうがない。だが、最終章で明かされる動機、更にそれを踏まえてプロローグを読み直すことで、あらためてこの作品が絶賛される理由がよく分かる。
 「あなたが事件の当事者でないということです。傍観者なら、どんなことでもいえます」(―本文253頁9行―)事件の真相を明かすことを迫る新聞記者・田島に対して、とある人物が真相を明かすことを拒むときにこのセリフを使うのだが、これは人殺しの小説を喜んで読んだり、戦争でバンバン人が死ぬのをニュースで観て喜ぶ私に対するきつい戒めなのかもしれない。