『北の夕鶴2/3の殺人』 島田荘司 光文社文庫

 雪の釧路を舞台にした変な館で起こった殺人事件と「ゆうづる9号」で起こった殺人事件に吉敷竹史刑事が挑む長編ミステリ。
 釧路にある変な建物「三ツ矢マンション」で起こった3つの殺人事件の方は、甲冑を着た鎧武者が出てきたりする不気味なモノ。解決編が島田お得意のアレを使用している物凄い力技だったりするので、誰もが「できねえだろ、物理的によぉ」と思うモノになっている。小学校で習う算数みたいな感じ。ただし、あまりにも見事にキマッているため、このことについて不満を言う読者*1はいないだろう。
 で、本作はそのミステリ部分のほうも出来が秀逸だが、さらに面白いのが、主人公・吉敷竹史と元妻・加納通子とのロマンスだろう。島田はここにめちゃくちゃ力をいれて書いている。殺人の容疑を掛けられている元妻のために死力を尽くす吉敷刑事がひたすらカッコよい。『奇想、天を動かす』ではとってつけたような正義感がうっとうしくなってしまう吉敷刑事だが、この作品では全く違う。一人の女性のためだけに頑張るというのは、青春モノとしてもいけるだろう。『異邦の騎士』に似ているのか、この作品は。
 私は島田のミステリ感はあまり好きではないが(歌野や二階堂のデビュー作を誉めるなよ)、男からみた恋愛描写はうまいと思った。

*1:ミステリ野郎に限る