『キドリントンから消えた娘』 コリン・デクスター ハヤカワ文庫

 「幾重にも張り巡らされた論理の罠をかいくぐり、試行錯誤のすえにモ−スが到達した結論とは? アクロバティックな推理が未曾有の興奮を巻き起こす現代本格の最高峰」という、あまりにも凄すぎる売り文句につられて購入。私は「現代本格の最高傑作」と呼ばれている前作の『ウッドストック行最終バス』をあまり面白いとは思わなかったのだが、こっちは面白かった。前作とやっていることはほとんど同じなのだが出来は比べ物にならない。
 モース警部が仮説を立て、それを証明しようと証拠を集めると、その仮説に反する証拠や証言が出てきて、モース警部の推理がいったんは挫折する。それでもモース警部はうちのめされること無くまた仮説を立てるという、ホントにそれだけの作品なのだが、この仮説を立てては崩し、立てては崩しという過程が無茶苦茶面白い。上質のミステリの解決編だけを400頁近く読んでいる感じ。毎回毎回モース警部の推理(というより妄想)に驚きやらツッコミを入れつつ読んでいた。この作品は麻薬に近い。もっと早く読めばよかった。
 また読んでいる間中、モース警部=ドクロちゃんという妙な等式が頭の中から離れなかった。客観的証拠は何も無いのに、「失踪した女性は既に死んでいるんじゃないだろうか?」などと妄想するモース警部と、サクラ君の行動を何でもかんでも無理やりロリコンに結び付けるドクロちゃんという両者は非常に似ていると思うのだがどうだろう。常にふりまわされっぱなしの相棒役であるルイス刑事と桜クンも似ているし。というよりもドクロちゃんというキャラ自体が探偵役という素質を秘めているのか。殺人事件も毎回起こるしな。