『イリヤの空 UFOの夏 その1』 秋山瑞人 電撃文庫

 素晴らしい。ただただ素晴らしい。「少年と少女が夜のプールで出会って〜」という、ただそれだけのお伽噺なのだが、非常に出来がいい。謎の転校生、クセの強い先輩、気の強い級友(女の子)、蓮っ葉な保健室の先生、生意気な妹、謎の男などなどありきたりなキャラクターばかりだが、作者が丁寧に描いているので、群像劇として最後まで楽しめる。全く飽きが来ない。
 私は本文の34頁4行目の「女の子は、少しだけうれしそうな顔をした」というこの「少しだけ」を読んだ瞬間にこの小説は成功していると判断した。個人的にこの小説の山場はここだった。
残念なのは、もっと若いうちに読んでいたらさらに楽しめただろうということだ。間違いない。この作品は『宝島』や『海底2万マイル』のように少年のうちに読んでおくべきものだ。これを読んで興奮しないやつは少年じゃない。