『殺しの双曲線*1』 西村京太郎 講談社文庫


 この推理小説のメイントリックは、双生児であることを利用したものです。
 何故、前もってトリックを明らかにしておくかというと、昔から、推理小説にはタブーに似たものがあり、例えば、ノックス(イギリスの作家)の「探偵小説十戒」の十番目に、「双生児を使った替玉トリックは、あらかじめ読者に知らせておかなければ、アンフェアである」と書いてあるからです。
 こうしたタブーは、形骸化したと考える人もいますが、作者としては、あくまで、読者にフェアに挑戦したいので、ここにトリックを明らかにしたわけです。
 これで、スタートは対等になりました。
 では、推理の旅に出発してください。


 以上長々と引用したのは冒頭の『この本を読まれる方へ』である。京太郎のおっちゃんがミステリ野郎に向かって「遊ぼうぜ」とよびかけている素晴らしい序文だと思う。この作品が素晴らしいのは、この序文を読めば分かると思うのだが、一応私の感想を少々。
本書は連続強盗事件を犯す双子の小柴兄弟のパートと、雪山の山荘で六人の男女が一人、また一人と殺されていくというクリスティーの『そして誰もいなくなった』(雰囲気は『三匹の盲ネズミ』の方に近いと思う)のような設定のパートが交互にはさまれる形で成り立っている。
 連続強盗事件が巧妙に雪の山荘での連続殺人事件に絡んでいくのが面白かった。西村京太郎の代表作との呼び声が高いのも納得のいく出来だ。あえてケチをつけるなら『そして〜』の本歌取りをやるんなら童謡殺人も入れてくれたら個人的にはうれしかった。まぁ、今のままでも十分面白いが。