『皆殺しパーティ』 天藤真 創元推理文庫

 富士川市を牛耳る傑物・吉川太平が命を狙われる殺人事件を描く長編。主人公・吉川太平は女性にすぐ手を出すヒヒオヤジで最低の人間として描かれている。が、この小説は彼の一人称の手記という体裁をとっており、本人はそのことに全く気付いておらず、物凄い善人だと思っている。当然他人からは嫌われまくっており、236人が彼に恨みを持つといわれている鬼畜ぶりである。また他のキャラクターもろくでなしがそろっている。が、読んでいてそれほど不快感は感じられない。ここら辺は作者の力量か。
 タイトルに恥じない通り登場人物表に載っている14名のうち、7人が死亡2人が行方不明になっている。(その他にももう二人死んでいる。)方法も毒殺、転落死、焼死、撲殺と非常にバラエティに富んでいる。人がいっぱい死ぬので読んでいてとても気持ちがよかった。
 大学生時代に左翼運動をしていた人々が出てくるなど設定が古臭いが、先を予想させない展開や連続殺人の方法(+毒殺の仕方)などミステリとしての出来は申し分ない。ラスト4行にこめられた悪意もえげつない。30年前に描かれた作品だが今読んでも十分面白い。