『夏の夜会』 西澤保彦

 私は大学でミステリー研究会というマニアックなものに所属している。で、そこには少々困った先輩がいる。彼は佐藤友也とか浦賀和宏とか舞城王太郎とか『マリみて』などの本をうれしそうに貸してくれる。とても迷惑な先輩だ。彼と私とはとても仲が悪い。サークルで会うたびにケンカしている。で、私が西澤保彦が好きだというのを知って、その先輩が貸してくれたのが本書『夏の夜会』である。


 主なストーリーは過去に起こった事件の謎を解こうと、ビール片手に主人公たちが四苦八苦するという最近の西澤らしい作品。彼らが推理するときに当てにするのは物証ではなく記憶である。それも曖昧なもので、ついさっきまでは正しいと思っていた記憶が、すぐ後にはまちがいだったと気づくという、ミステリとしてそれどうよ、な展開になっている。


 ただ私はそんな展開(過去の事件・物証なし・推理展開はほぼ妄想)の話が大好きなのでページをめくるのが楽しかった。私が好きなクリスティにもそういうのが当てはまる小説がいくつかある。あの先輩が貸してくれるミステリとしては珍しく面白かった。