『柳生刺客状』 隆慶一郎 講談社文庫

 隆慶一郎の描く武士や遊女がどいつもこいつも魅力的なのはこいつらが真剣に遊ぶからだろう。「男が道ですれ違う女にもしも欲情したら、そいつはすぐに女に手を出しても良い。この場合、女性に拒否権は無いんだよ。ただし、男がその女と寝るためには男は女の前で生きるか死ぬかのロシアンルーレットを演じなければならない。逆の場合も同じさ。女が道ですれ違う男に欲情した場合、その男に手を出してもいい。男がその申し出を拒否したいのなら、その女の前で死亡率5割のロシアンルーレットを演じなければならない。男女の仲はこの位の気構えが無いといけないよ」とはフランスの高級娼婦マダム・ラロシェルの言葉だけれども、隆慶一郎の作品に登場する男女はこの理念をキチンと把握している。吉原を舞台にした男女の苛烈な人間模様を描いた『張りの吉原』を読んでいて私はそう思った。