『読者よ欺かるるなかれ』 カーター・ディクスン ハヤカワ文庫

 他人が考えていることを次々と言い当てることが出来る超能力者ペニイク。彼はサム・コンスタンブルの死をも予告した。果たしてペニイクの予言した時刻に、サムは謎の死を遂げる。警察官に尋問されたペニイクは“私が念力でサムを殺した”というのだ。証拠が一切ないため手の出せない警察は高名なH・M卿に捜査を依頼する。念力による遠隔殺人を高らかに宣言するペニイクとH・M卿との一騎打ちが楽しめる一編。
 不可能性、怪奇趣味、男女の恋愛とカーの特色が全て正の方向に働くとこんなにも面白くなるなんて、とても『月明かりの闇』を書いた作者と同じ人間だとは思えない。『月明かりの闇』でカーを読むのやめなくてほんとに良かった。
 この話は伏線の回収の仕方がかなり豪快で。解決編を読んでいて、「本編のあの無駄な会話(と俺が勝手に思っていた)部分が伏線として処理されている!」と驚く箇所がかなりあった。やっぱカーは凄いよ。賢い人じゃなくて凄い人だよ。