『室町お伽草紙』 山田風太郎 新潮文庫

 織田信長上杉謙信武田信玄松永久秀が美姫・香具耶を巡って総奪戦を繰りひろげる。まだ日吉丸と名乗っていた若き豊臣秀吉がこの物語の案内役として、幾多の武将たちの狭間で右往左往する。京でプレ桶狭間の戦いが起こり、堺でプレ川中島の戦いが発生する伝奇小説。
 「マラタトウ!」という掛け声で男根を通常の二倍、三倍にも勃起させるという恐ろしい妖術を使う玉藻という女性がこの物語には登場するのだが、彼女が「マラタトウ!」と叫ぶたんびに私も「アイテッ!」とか思わず叫んで股間を押さえてしまう。もう想像するだけでも痛い。「摩羅が勃つ」という掛け声もそのまんまな男には防ぎようもない術を駆使してくる玉藻さんがすっげー怖え、この小説。
 山田風太郎の作品を読んでいると(最近読んだ作家だと隆慶一郎の作品もそうなのだけど)嘘だっていうのが頭では分かっていても、心の奥の方ではもしかしたら歴史はこうだったんじゃないんだろうかと、本当は若き日の織田信長が謙信や信玄とガチンコバトルをしたんじゃあないかと一瞬でも夢想しまうのが、こう、なんか楽しい。俺が読みたかった室町モノとはそもそも時代が違う(おれは南北朝の動乱を描いた話が読みたかった)けれども、これはこれで破天荒で楽しめた。
 しかし、この新潮文庫版のズラっぽい顔写真はちょっといただけない。山田風太郎の顔はちくまに収録されている短編の忍法帖に載っていた顔写真(タバコをふいーっと吸っている渋い顔写真)でイメージしていたから、この新潮文庫のやつと比べると落差が悲しい。