『毒薬の手帖』 澁澤龍彦 河出文庫

 違う、人が死ぬ本を読むのは単なる逃避行動なのではない。戦術的撤退なのだ。一時的に別世界で戯れることによって集中力を高めるという、そしてその集中力を勉学の方にも転向させるという、そういう効果があるんだ。だからこれは間違ったことじゃないんだ。などと自分を説得しながら読んだ。
 この本は毒薬に関するエッセイを集めた作品。毒物辞典のように、毒薬の正式名称やその効用を即物的に語るのではなく、古今の犯罪者たちのエピソードを収集し、それらを魅力的に配列し、ガッツリと語りかけてくる本。西洋のエピソードがメインで東洋のものは少ないのが残念。作者が仏文科の人だから仕方がないのかな。