『随筆 新平家』 吉川英治 吉川英治歴史時代文庫補4


 七年もの長期に及ぶ週刊朝日連載中に筆休めとして書かれた『新平家落穂集』・『新平家雑感』・『新・平家今昔紀行』の三点を収録。作者による『新・平家物語』創作裏話、(例えば朱鼻伴卜や阿部麻鳥には実はモデルがいただの)、あるいは作者近況を載せたりした(『ローマの休日』を観ただの、松本清張に会っただの)、または読者からのファンレターにも真面目に答えるという(「安徳天皇の放尿プレイなんぞ描くんじゃねえ、このやろう」という抗議文にも吉川英治は誠実に回答している)、とにかく読者サービスに溢れた一冊。
 吉川英治の「新・平家物語」を読み終った者のみが味わえる喜び。どのエッセイにも吉川英治の創作姿勢が良く現れている。
 特に167頁の――ぼくは自分が高い文学者でありたいなどと思ったことはない。ぼくの机は庶民の中にあるものだ。庶民なみの一市民であればたくさんである。そして希うところは、この仕事が、この書の一冊ずつが、読者の何かになって欲しいことだ。読者にとって、せめて、読んでむだでなかったという書物ではありたいと思う。――この一文だけで今日一日十分楽しめた。
 リアルで吉川英治の話をしたら物凄くウザがられるので、こちらで腐るほど書いておこう。吉川英治は実に良い。