『歯と爪』 ビル・S・バリンジャー 創元推理文庫

 彼の名はリュウ。生前、彼は奇術師だった。早死にしたためフーディにやサーストンほど有名にならなかったが彼はこれらの名人すら試みなかったような一大奇術をやってのけた。まず第一に、ある殺人犯に対して復習を成し遂げた。第二に彼も殺人を犯した。そして第三に、その謀略工作の中で自分も殺されたのである……。

 12月4日に行われる貴志祐介講演会の予習として、貴志祐介がベストミステリの一つとしてあげている本書を読んでみた。
 本書は二つのストーリーが交互に進行していく。一つのはリュウと名乗る奇術師とタリーという女性が出会い、結婚し、そして何者かにタリーが殺されてしまう。もう一方はキャノン検事とデンマン弁護士によるスリリングな法廷対決。序盤では両者の事件がどのように絡んでくるのか、その作者の手腕に楽しみながら読み、中盤では展開し続ける物語に魅了され、休む暇無く次々と頁をめくり、終盤では解決の見事さにため息をついてしまう。スキのない小説。
 貴志祐介がなんで『硝子のハンマー』に第二部をくっつけたのか、その理由の一端がこれを読んでなんとなく理解できた。