『オーデュボンの祈り』 伊坂幸太郎 新潮文庫

 「ぼくらの時代の新しい文学」などと伊坂幸太郎が紹介されていて、その時点で読む気が40%位失せた。もちょっと真面目に仕事しようよ、編集部。給料もらってんだしさ。
 で、読み始めてすぐに気づく。「うわ、これ浅暮の「ダブ(エ)ストン」みたいな物語じゃねえの、勘弁してよ」と。一瞬読まずに捨てようかとも考えた。でも、読書会の課題本やしと自分を慰めて終いまで読み通してみたら、これが結構面白かった。
 メインの謎は「未来予知のできる案山子が何故自分の死を防ぐことが出来なかったのか?」というシンプル且つ魅力的なもの。これに嘘つきの画家や殺人鬼などといった奇妙なキャラクターを交えて、物語が進んでいく。
 舞台が一応島という閉所に限定されているが、閉塞感は微塵も感じられない。主人公の伊藤が島のあちこちに行って、島の住人たちと会話するからだろうか。物語世界に広がりが感じられる。
 案山子が死んだ理由も面白いし、何よりもラストがキレイ。この作品はあたりだ。