『真田太平記(一) 天魔の夏』 池波正太郎 新潮文庫

 武田の滅亡と、その武田を亡ぼした織田信長が本能寺に倒れ、それに翻弄される真田家の攻防を描いた物語。お江さんというくのいちが活躍するのだが、この人が口から粘着性の唾を吐いたり、死んでも生き返ったりしない(要するに必殺技を持っていない)のが不満。鍛えぬかれた身体能力や緻密に張り巡らされた諜報網よりも、必殺技がみたい、必殺技が。
 忍者の活躍が地味(あくまでも風太郎の忍法帖と比較しての話だが)を除けば、かなり面白い。織田家や徳川家や北条家などの大勢力の狭間でシコシコと生き延びようとする真田家が非常に熱い。
 関ヶ原と大阪の陣が後ろに控えているのを創造すると堪らない。山岡荘八の『伊達政宗』では関ヶ原も大阪の陣もほんの少ししかなかったから、1巻丸ごと大阪の陣などはかなり楽しめそうだ。大地の萌える匂いを嗅ぎ取る健やかな若者・左平次がかっこいいので、しばらくは真田太平記をメインに読んでいきたい。貴志祐介のことはキレイサッパリと忘れて。