『Twelve Y.O.』 福井晴敏 講談社文庫

 はじめに言っておこう。これは人生に挫折した人間のための物語だ。東馬の無駄に規模のでかい親子喧嘩とか、理沙と護の恋愛ごっことかは正直どうでもいい。若い頃の事故でヘリコプターに搭乗出来なくなったパイロットが、再び大空を目指して飛び立とうと頑張るのが本編のメインのストーリーだ。自衛隊とか沖縄の軍事基地とかはどうでもいい。作者としてはこの話のメインはそっちなのかもしれないが、俺にとっては空を飛ぶオッサンの方がメインだ。
 ビールとかの飲みすぎで、腹もぶよんぶよんになっちゃった中年のオッサンが、それでも大切なものを護る為に、体から変な汁を撒き散らしながら、ヘリコプターで空へ飛んでいくという場面が、もう最高にすばらしい。本編274頁での「いい腕だ、曹長」とかが、もう、もう…。
 この作品よりも『川の深さは』や『亡国のイージス』のほうが世評は高いみたいなので、それらの作品を読むのが非常に楽しみだ。