『眠りをむさぼりすぎた男』 クレイグ・ライス 国書刊行会


 「新聞の読者や、ラジオのニュースに耳を傾ける人たちにとって、海で溺れてしまった百人の気の毒な人たちと自分とを同一視するのは非常に困難なことなんです。しかしあわれな男ひとりとなら…」―本文205頁15行メルヴィル・フェア氏の台詞―


 実際に空爆やら飢饉やらで人がバンバン死のうがそんなことには全く興味がないくせに、俺は何故殺人事件の小説を読むのがこんなに好きなのだろうかとちょっと考えてみた。で、その理由がうまく言えねえなと思っていたら、この小説の上記のセリフがうまいこと俺の気持ちを代弁していると思う。要するに人が死ぬという”事実”が好きなんじゃなくて、人が死ぬことによって起きる”物語”が好きなんだろう、俺は。
 内容自体はラストで今までの世界が全てひっくり返るという普通のミステリ。死体をみつけても諸般の事情から他人に打ち明けることが出来ず、悶々とする登場人物達が面白かった。