『イリヤの空 UFOの夏 その3』 秋山瑞人 電撃文庫

 素晴らしい。とにかく素晴らしい。1巻、2巻で中学生の日常をじっくりと描いていた物語がようやく動き出すという、起承転結で言えば『転』の巻にあたるのが本書だといえよう。
 今回の見所はなんといっても、これまで情けない普通の中学生として描かれていた少年がたった一人の少女のために立ち上がるという(立ち上がると言っても逃げるだけなんだが)場面だろう。少年が頑張るのは少女のためという変な思い込みが私にはあるのだが、この作者はそれを真っ当に描いている。本当に素晴らしい。
 実は私がこのシリーズを読み始めたきっかけは笠井潔の書評を読んだからである。フランスかどっかの哲学者とこの小説を絡めて語っていた笠井潔の物凄い馬鹿な書評を読んで(e-novelsだったかな)、この作品は読まねばなるまいと思った。あんな面白い書評を書くから笠井潔は侮れない。