『アクロイドを殺したのはだれか?』 ピエール・バイヤール 筑摩書房

 従来フェアかアンフェアかで議論をなされてきたクリスティーの有名な作品『アクロイド殺し』。本書では「実はポアロ、推理ミスってんじゃねえのか?」と考えたバイヤール氏が執筆した、アクロイドを殺した本当の犯人を指摘する刺激的なミステリの評論。ポアロの推理の特徴である「自分の作り上げた仮説に反する手がかりは些細なこととして無視する」欠点をけなし、ポアロの推理とは正反対の結論を導き出している。
 バイヤールという人は心理学かなんかの研究者らしいが、この人はかなりミステリ好きなんじゃないだろうか。「『アクロイド殺し』は再読を要求するミステリだ」(P72)等とカッコいいことをいっている。元さんに是非きかせてあげたい。
 アクロイドを殺した容疑者を絞るときにちょっと苦しい推理展開が見られたり、真犯人の犯行動機がバイヤール氏の想像(作中の言葉で言うならば妄想)に基づいているのが少々マイナスポイントだが、ミステリとしての説得力は十分ある。クリスティーがこれ読んだら驚いただろう。
 非常に面白い本なのだが、『終わりなき夜に生まれつく』や『カーテン』をはじめその他様々なクリスティーの小説の犯人をばらしているので、他人に勧められないのが残念だ。