『冷えきった街』 仁木悦子 講談社文庫


 9年前に暴漢に襲われて妻を亡くし、アルコール漬けになった探偵・三影潤が、一人の少年との交流をとおして過去の出来事から立ち直っていく物語。チャラい物理トリックがかまされていたりするので、ミステリとしては(゜Д゜)ハァ?な感じだが、男同士の友情譚として読めば非常に出来がいい。
 「ガキが何を言おうと、彼女はもう決して誰にも汚されはしないのだ。」(―本文114頁9行探偵役三影の独白―)と言って少年をぶん殴っていた三影が、ラストではこれ以上無いというぐらい少年の行動を理解している。「おはなし」自体は非常に良い。変なトリックをいれない方がこの作品は楽しめたかもしんない。

 『天使の傷跡』 西村京太郎 講談社文庫

 山の中で刺された男は「天」と言い残して、息絶えた。偶然現場に行き合わせた新聞記者の田島はその事件を追うが、その背後には日本が抱える大きな問題が…。第11回江戸川乱歩賞
 

 殺人事件を調べるのが新聞記者だったり、崖の上で刑事と問答したりと、私が持つ社会派のイメージによく符号する作品。中盤が退屈で退屈でしょうがない。だが、最終章で明かされる動機、更にそれを踏まえてプロローグを読み直すことで、あらためてこの作品が絶賛される理由がよく分かる。
 「あなたが事件の当事者でないということです。傍観者なら、どんなことでもいえます」(―本文253頁9行―)事件の真相を明かすことを迫る新聞記者・田島に対して、とある人物が真相を明かすことを拒むときにこのセリフを使うのだが、これは人殺しの小説を喜んで読んだり、戦争でバンバン人が死ぬのをニュースで観て喜ぶ私に対するきつい戒めなのかもしれない。