『陽気な容疑者たち』 天藤真 創元推理文庫

 江戸川乱歩賞の最終候補に残るものの、戸川昌子の『大いなる幻影』と佐賀潜の『華やかな死体』に負けてしまって、乱歩賞を逃したという天藤真の記念すべきデビュー長編。3重ロックの密室殺人を扱ったミステリ。デビュー作にも関わらず、天藤真のその後の作風が顕著に現れた一冊。
 密室トリック自体は決して誉められた出来ではないのだが、それ以外がかなり秀逸。特に266頁の被害者である吉田辰造の助けを呼ぶ声を家族が無視して、次々と明かりを消していくシーンなどは天藤真の小説の中でも屈指の名場面。仕事に精を出し、家庭を顧みなかった男の末路を、ここまで哀しくも、それでいてどこかしら滑稽に描けるなんて、天藤真は本当に稀有な作家だよ。