『真田太平記(十二)雲の峰』 池波正太郎 新潮文庫

 関ヶ原の折の屈辱を忘れかねる徳川秀忠は、家康が死去するとただちに信之の真田藩に襲いかかった。秀忠は、信之の側近に送り込んだ隠密を使い、冬の陣の直後に幸村と密会した事実を突いて取潰しに追込もうとするが、ただ1人生き残った草の者お江の活躍で信之は難をまぬがれる。そんなある日、上田城に向井佐助の最期を見とった摂津の農夫が遺品を届けに現われる。全12巻遂に完結。
 「真田太平記関ヶ原の合戦や大阪の陣なんかよりも、合戦後の後始末を描いた12巻が一番面白い」とどっかのカレー屋さんが言っていて、「またこの人はいい加減なことを……」と俺はいつも通り適当に聞き流していたのだが、それは俺が間違っていた。確かにカレー屋さんの言うように、この12巻は抜群に面白い。
 豊臣家、徳川家、北条家と大国に囲まれた弱小勢力の真田家が、なんとかして存続していこうとして、草の者たちを使役していたのだけれども、それが、こう、いつのまにか真田昌幸真田幸村という個人の武名を天下に知らしめる為に、真田の草の者達を使うようになってしまう。しかし、幸村が大阪の陣で華々しく散った後に、真田信之は残った数少ない草の者達を使って、真田家を残すために草の者達を使っていく。当初の理念に戻った使い方をしていく。この巻には幸村は全く出てこないのだけれど、この幸村と信之との草の者たちの使い方を巡る対比がいい。
 真田昌幸真田幸村も死に、一人残された真田信之は、徳川幕府の命により生まれ育った上田から離れることになってしまう。ここだけ読んでみたら単なるバッドエンドなのだが、この後の、城から出ていこうとする真田幸村を温かく領民たちが送り出してくれるという描写を読めば、謀略には手を染めることなくひたすら民政に心を砕いてきた真田信之の人生がどんなものだったかがよく分かる。ああ、もう、なんで戦国無双真田信之でplayできないんだろう。