『織田信長(5) 本能寺の巻』 山岡荘八 山岡荘八歴史文庫

 長篠の戦に勝利を収めた織田信長に敵はいない。武田信玄上杉謙信亡き後、信長の天下統一は目の前。しかし、そこには大きな陥穽が待ち受けていた。その陥穽の名は明智日向守光秀。っ時代を先駆けた不世出の天才は笑って死んだ。完結編。
 明智光秀が本能寺で謀反を起こした動機は様々に噂されている。天下取りを目指した野望説。朝廷・家康による陰謀説。本書では(多分最もポピュラーな)光秀個人による怨恨説を採っている。これは家康の接待ミスで叩かれ、荒木村重松永久秀など裏切り者は決して許さず、林や佐久間などの古くからの家臣たちをも平気で切り捨てる(信長から視点からすれば妥当な処置、しかし光秀からするとあまりにもエキセントリックな)織田信長の言動に、光秀自身がついていけなくなって、殺っちゃったと言う説だ。
 んで、その光秀が信長についていけなくなる過程がこの本ではよく書かれている。初期には有能な家臣として、また妻・濃姫の親類として、信長が深く信頼し、理想的な関係を築いていた明智光秀との仲も、いつの頃からか齟齬が生じはじめる。小さなボタンのかけ違いが、少しずつ、少しずつ積み重なっていく。そんで、最後には本能寺に結実する。実にすばらしい。
 あと忘れちゃいけないのが、薙刀を振り回して本能寺で信長と供に果てる濃姫様。さすがにこれは山岡荘八の創作なのだろうけども。死の間際までドツキ漫才やっているのが何とも言えん。ホントに仲良いのな、こいつら。