『仕立て屋の恋』 ジョルジュ・シムノン ハヤカワ文庫

 冴えない男・ヒール氏の恋とその死を描いた物語。
 まずはその文体(翻訳だけど)。心情描写を徹底的に排除した、その完璧な三人称視点は独特としかいいようがない。小説というよりもシナリオといった方がしっくりくる。また、余白を多くし、一頁当りの文字数を少なくしているため、非常に読みやすい。
 お話し自体にはあまり魅力がなかった。はじめから終いまで、ヒール氏がアリスという娘にひっかき回されるだけでちっとも面白くない。
 日本人の作家なら全体的にもっとドロドロとした仕上がりになるだろうに、それをこうもアッサリと仕上げるのがフランス人(つーかシムノンか?)の特徴なんだろうか?シムノンの作品は初めて読んだんで、はっきりしたことはいえないが。