『一角獣殺人事件』 カーター・ディクスン 国書刊行会

 被害者は額を鋭い尖った物で貫かれて殺されていた。決して拳銃やナイフで刺されて、できた傷ではない。まさかあの伝説の一角獣によって殺されたのか?希代の怪盗・フラマンド、その怪盗を捕まえるためにフランス中を駆けずりまわる名探偵・ガストン、お馴染みのH・M卿など多彩な顔ぶれが怪しげな古城で推理の火花を散らす長編ミステリ。


 最近復刊された『パンチとジュディ』の前作にあたる作品。人物誤認トリックなどが、ちょっとだけ「おおっ!」と思わせたりもするのだが、全体の出来としては正直微妙だと思う。特に硫黄マッチみたいなフランス特有のけったいなアイテムを重要な伏線として出されても、現代の日本の読者には分からへんと思うよ。
 この作品はやはり『パンチとジュディ』で結婚式を挙げようとして悪戦苦闘するケンウッド・ブレイクとイブリンとのラブロマンスを楽しむべきだろう。彼らの生ぬるいラブコメが本書の最大の魅力じゃないだろうか。ケンとイブリンのラブコメとドタバタが非常に楽しいので、この作品は私の中で非常に評価が高い。ミステリの方はおまけだ。別に殺人事件がなくても、この作品の面白さを削ぐことはないと思う。