『災厄の町』 エラリイ・クイーン

 (あらすじ紹介)
 ライツビルという何の変哲も無い町にエラリイ(登場人物)が引っ越してくる。彼が引っ越してきた当初、町の人々は彼を著名な作家として盛大にもてはやした。しかし彼が居候しているライト家で、ローズマリー・ハイトを毒殺する事件と、ノーラ・ライトの毒殺未遂事件が起こる。するとたちまち、ライツビルの町の人々は手のひらを返したかのように、エラリイ(登場人物)達に対して辛辣にあたるようになる。
 国名シリーズの傑作や悲劇四部作よりも人気の高いといわれるクイーン(作者)の傑作。



1(諸注意に従った感想)
 本書の見所はなんといっても第5部第24章『エラリイ・スミス、証人席へ』と第6部第29章『エラリイ・クイーンの再来』だろう。
前者では、殺人の疑いで起訴されているジム・ハイト氏を弁護するためにエラリイ(登場人物)が証人席に立つ。だが、そこでは初期の国名シリーズなどなら確実にあったと思われるエラリイ(登場人物)の神のごとき推理は全く披露されない。ただエラリイ(登場人物)はいい加減な事をいって、裁判所を混乱させるだけである。初期の国名シリーズに慣れてきた読者には肩透かしを食らう結果になる。
 一方後者の場面では、ある2人の人物のためにエラリイ(登場人物)は事件の謎解きをする。そこでは父親のリチャード・クイーンに対して焦らしまくって真相を後回しにしていた、若かりし頃の推理マニアなエラリイ(登場人物)が謎解きをするのではなく、若い恋人たちを温かく見守る思慮分別のある大人のエラリイ(登場人物)として謎解きをするのである。
 このような地に足をつけたエラリイ(登場人物)などのキャラクター達が描かれているのが、本書の一番面白い箇所であり、またクイーン(作者)の代表作として人気のある所以だろう。



2(諸注意を無視した感想)
 私がクイーン(作者)を読み始めたのは創元推理文庫でしたので、まずハヤカワ文庫の読みやすさに驚きまし。クイーン(作者)といえばヴァン・ダインやG・K・チェスタトンについで読みにくいと思っていた私にとっては、ハヤカワ文庫の読みやすさは本当に意外でした。
 まるで昼休みに教室の片隅でT・S・エリオットの詩集なんかを読んでいる、眼鏡をかけた内気なクラスの女の子が家に帰ったらこっそりと××しているというぐらい意外でした。それぐらいハヤカワ文庫の訳は読みやすいです。
 ミステリとしては「ある家庭で毒殺事件が起こった。さあ犯人は誰?」という、この作品が発表された当時(1942年)からみても使い古されたシンプルなネタです。女性が殺されたあと、容疑者のジム・ハイト氏の裁判が延々と続くのも、変化に乏しく、読んでいて結構退屈です。
 が、それでも私がこの作品を気に入っているのは、今まで何かあったら「お父さん」が口癖のファザコン野郎だと長年思っていた変態エラリイ(登場人物)が、本書ではプレイボーイの役回りをしている場面など、エラリイ(登場人物)の意外な人間性が見えるからでしょう。